心臓の機能と役割
心臓は全身に血液を送り出すポンプのような働きがあります。
その拍動数は1日に約10万回。生涯休むことなく、拍動し続けています。
この心臓が休みなくポンプとしての機能を果たすためには、心臓の各細胞に十分な酸素と栄養の供給が必要です。
冠動脈の役割と心疾患
冠動脈(かんどうみゃく)は、心臓の覆うように冠(かんむり)のような形状で流れる動脈。
この動脈が心臓の表面を流れ、心臓を構成する筋肉の細胞に栄養を与えることで心臓は動くことができます。
この冠動脈が正常に機能しなくなってしまうと、心臓は酸欠状態に陥ります。
虚血性心疾患
虚血性心疾患は、心臓が酸欠を起こす病気です。
血液がうまく流れなくなった状態(虚血状態)に陥ることで生じる心疾患です。
その病気の状態によって
-
- 狭心症(きょうしんしょう)
-
- 心筋梗塞(しんきんこうそく)
以上の2つに分類されます。
狭心症とは
コレステロールがたまり動脈硬化が進むと、血管の内側にプラークと呼ばれる血管の瘤(こぶ)ができます。
プラークによって血管がつまったり、狭くなってしまうと、血流が不十分となり心臓を動かすための血液が不足する「心筋虚血」に陥ります。
狭心症とは、心臓の血液不足によって、胸に圧迫感を感じる症状です。
狭心症の症状と特徴
- 胸が締め付けられるように痛くなる。
- 動悸・息切れがする。
以上のような症状が起きます。
ただし、この症状は長くても15分程度。
5〜10分程度安静していると、痛みが治るという特徴があります。
心筋梗塞とは
動脈硬化病変(プラーク)が突然破綻し、急速に血栓が形成され、あっという間に血流が途絶してしまう病態です。
栄養不足に対して脆弱な心筋細胞は、完全閉塞が持続すると完全に壊死してしまいます。
心筋細胞が壊死してしまう病気を「心筋梗塞」と呼びます。
心筋梗塞の症状と特徴
- 重苦しい強い痛み。
- 焼けつくような激しい痛み。
以上のような症状が起きます。
心筋梗塞は、30分以上続くのが特徴です。
虚血性心疾患の診断
主な症状
狭心症が疑われるケース
- 階段を上がる時や、急いで歩いた時に、胸の痛みが起こる。
- 胸の痛みで目が覚めることがある。
- 夜明け方トイレに立った時や、洗面の時に胸の痛みが起こる。
心筋梗塞が疑われるケース
- 安静時・運動時とわず、突然、前胸部に激しい痛みが起こる。(15分以上続く)
- 持続性の胸痛に伴い、不安感・動悸・息切れ・冷汗・脱力感がある。
狭心症と心筋梗塞症は、症状が続く時間にはっきりと違いがあります。
狭心症の症状は長くても15分までですが、急性心筋梗塞症では通常30分以上にわたって症状が持続します。
前胸部には、
- 強い痛み
- 締めつけ感
- 圧迫感
が続き、痛みのために恐怖感や不安感を伴います。
痛みは、前胸部中央や胸全体で、まれに背中、左腕、上腹部に生じることがあります。
虚血性心疾患の診断については、上記のような症状の他、
- 心電図検査
- 心臓超音波検査(心エコー)
- 血液検査
から診断します。
また、確定診断のためには
- 冠動脈CT検査
- 冠動脈造影検査
が必要になります。
虚血性心疾患の各種検査
心電図検査
狭心症が疑われる場合
発作が起きていない時の心電図はほとんどのケースで正常値が出ることが多いです。
発作時は心電図に異常が現れても、15分以内に症状が治ると、心電図の異常も消失します。
つまり、発作してから病院へ行くまでの間には、元の状態に戻ってしまうのです。
狭心症が疑われる場合は、発作時の状態を調べるために運動をしてもらいながら心電図をとります。
これを「負荷心電図」といいます。
心筋梗塞が疑われる場合
狭心症と異なり、心筋梗塞の心電図には特徴的な変化が残るため、診断は容易である場合がほとんどです。
診断時に以前の心電図があれば、担当の先生からコピーをもらっておくことをおすすめします。
以前の結果と比較することで、今回どのような変化があるのかを判断するのに役立ちます。
発作の頻度が多い方は24時間心電図(ホルター心電図)を装着して発作時の心電図変化を評価することも有用です。
血液検査
心筋梗塞症の発作後、3〜6時間経過すると、筋細胞が破壊されたことによって細胞から酸素が血液中に漏れ出します。
それによって、トロポニンとよばれる心筋細胞の蛋白(たんぱく)成分が、血液中に増え出します。
※ 狭心症の場合では、血液検査による異常は見られません。
冠動脈造影検査
カテーテル(※)を手足の動脈を通じて心臓の血管内まで送り、造影剤を血管内に流すことで冠動脈を撮影するものです。
造影検査によって、冠動脈に狭心症状をきたす要因となる「狭窄」の有無を確認することができます。
冠動脈造影検査は、虚血性心疾患の診断だけではなく「カテーテル治療」にも選択されます。
※ カテーテルとは
呼ばれる細く柔らかいチューブ(太さ1ミリ程度)
冠動脈CT
冠動脈の狭窄を可視的に評価する方法として冠動脈CTがあります。
末梢静脈から造影剤を注入し、CTで撮影します。
冠動脈造影検査よりも身体に負担をかけずに検査することができます。
最近のCTは精度が向上し、冠動脈造影検査に匹敵するほどの感度と特異度(※)をもち、とくに陰性的中率は100%といわれています。
冠動脈CTで有意狭窄がないと判断されれば、冠動脈に異常はなしと判断できます。
非特異的な胸痛の原因の評価に役立ちます。
また、被曝量もおさえられますので、安全して検査を受けることができます。
※感度と特異度
感度:異常値を示す割合(真の陽性率)
特異度:正常値を示す割合(真の陰性率)
狭心症の治療
2つに分類される狭心症
労作性狭心症
- 重い荷物を運んだ時に心臓が苦しくなった。
- 階段を登る時に、締め付けられるような症状があった。
など、心臓に負担がかかった時に痛みや息苦しさがが出る場合は「労作性狭心症」を疑います。
労作性狭心症は、主に冠動脈の動脈硬化によって血管内径が狭くなることが原因とされています。
安静時狭心症(異型狭心症)
- 睡眠中に突然、発作が起きた。
- 安静中に突然、動悸や息切れ、胸の痛みがでた。
など、とくに激しい動作をしていないのに胸の痛みを感じる場合は、安静時狭心症(異型狭心症)を疑います。
安静時狭心症は冠動脈の一過性の痙攣が原因だといわれています。
狭心症の治療法
薬物療法
狭心症の薬には、
- 血管拡張薬
- ベータ遮断薬
があります。
血管拡張薬(硝酸薬とカルシウム拮抗薬)には、
- 冠動脈を広げて血流をよくする働き
- 全身の血管も同時に広げて心臓の負担を軽くする働き
があります。
ベータ遮断薬は、
- 興奮する神経である交感神経の活動を抑える
- 血圧を低くし、脈拍数も少なくする
以上のような効果があり、心臓の負担を軽減させることができる薬です。
どちらも血圧を下げることができるため、高血圧の治療薬としてもよく使われます。
冠動脈形成術(PCI)
動脈硬化で狭窄した冠動脈を、カテーテルを使って広げる手術です。
先端に風船(バルーン)、ステントのついたカテーテルを使って、冠動脈の狭窄部でこの風船をふくらませ、動脈を広げます。
十分に広がらない場合はステント(※)を挿入します。
※ ステント:金属製の網状の筒を留置し、血液の流れを改善する治療法
冠動脈バイパス術
冠動脈の狭窄部が、
- カテーテルを使うには難しい場所にある。
- カテーテル治療法では危険を伴う。
- 複数の個所に狭窄が生じている。
など
カテーテルによる治療はリスクが高いと判断した場合、「冠動脈バイパス術」という方法を検討します。
冠動脈バイパス手術とは、狭心症や心筋梗塞で、狭まった血管の先に新しい血管(バイパス=移植した血管)を接続し、血流の流れを人工的につくる手術です。
冠動脈バイパス術では、足の静脈、もしくは胸・腕・胃の動脈を使います。
患者さんの病状に合わせて手術方法を選びます。
心筋梗塞の治療と予防
速やかな治療が求められる
心筋細胞が時間と共に壊死(=梗塞)していく病態である急性心筋梗塞。
閉塞時間が長ければ長いほど、心筋細胞が壊死してしまう確率は高くなります。
壊死してしまうと心筋細胞は半永久的に回復できないため、狭心症と比べても重篤な状態であるといえます。
急性心筋梗塞症で亡くなられる方の半数以上が、発症から1時間以内に集中しています。
胸痛発作が出てから3〜6時間以内に血流を再開させると、心筋細胞が回復する可能性が高くなります。
症状が出た時は緊急状態
心筋梗塞の急性期は、心臓のポンプ機能が落ちて心不全やショックになったり、命にかかわる不整脈が出現して死亡するリスクが高い状態となります。
従って、心筋梗塞を疑わせる症状が出現した際は、緊急状態だと判断し、迷わず119番、救急車を呼んでください。
速やかな治療は生命予後を改善するだけでなく、その後のあなたのQuolity of lifeをよりよくすることに大きく寄与します。
虚血性心疾患の予防
動脈硬化の進行を予防する
虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)の治療として選択される「カテーテル治療」をはじめとした手術療法は、あくまでも狭窄局所を治す治療です。
狭窄の原因となる動脈硬化を完治させる治療ではありません。
治療によって一時的に狭い血管を広げることができたとしても、その状態を維持するためには動脈硬化の進行を予防する必要があります。
つまり、虚血性心疾患を予防するためには、普段の生活習慣を見直し、動脈硬化の要因となる危険因子を無くしていくことが重要です。
動脈硬化の危険因子
- 禁煙する
- 塩分・糖分・脂肪分を取り過ぎない
- 適度な運動を心がける
- ストレスを避け、規則正しい生活を送る
- 定期的に検査をする
→ 高血圧・糖尿病・高脂血症の早期発見
危険因子がしっかり管理されない場合は、せっかく治療した部位が再度悪化したり、新たな場所に病気が現れる確率が高くなります。
また、血縁者に心筋梗塞の患者がいれば、とくに生活習慣に注意を払いましょう。
そして、 強い胸痛を感じたらすぐ病院へ連絡してください。